Quad CX4 0131

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QUAD盤について紹介しましょう

あなたは4chステレオのことを覚えていますか? 30年以上も昔の話です。

お宝の宝庫、4ch盤って人騒がせな存在です

 今でこそ5.1chだ、DTSだ、あるいはDPSだと様々な音場再生システムがAV(アダルトでない方)の世界では一般的になっています。デジタルアンプを使用したものなら、わずか2〜3万円でサテライトスピーカー4本にスーパーウーファー1本がついたAVアンプも家電量販店で売られている時代です。
 しかしこのAt Fillmore EastのQuadradiscが発売された1974年という時代に、いったい日本のどれだけの家庭で正しい4ch再生をしていたことでしょう。
 おっと、話は4chのシステムの話ではなかったですね。この件については別項で触れるとして、ここでは4ch仕様のAt Fillmore East、通称Quad盤について解説して行きたいと思います。

 レコードを少しでも集められた方ならお分かりになると思いますが、このQuad盤は実は別テイクの宝庫だったのです。しかし当時はそんなことを知る由もなく、自分自身も場合によっては4ch盤と知ることも無く買ってしまったレコードこともありました。そのため後年に正規盤をCDで手に入れてテイクが違うことを知り、自分が持っていたLPが4ch盤だったと知ったこともありました。
 さてFillmoreに話を戻しましょう。Fillmoreに関してもちゃんとテイク違い(というか別編集)が入っていました。そしてそんなことについて書かれた資料もつい最近まではほとんどありませんでした。もちろん今まで一度もちゃんとしたモジュレーターを使用して再生したことはありませんが、ミキシングの違いはしっかり分かりました。

例によって、まずは見た目から

QUAD表ジャケ2.jpg 赤く囲んだり下線を引いたところがオリジナルと違うところ。個人的にはどうして機材ケースにタイトルが無いのか? これが死ぬほど不思議。

1・QUADの証

 
QUADマーク.jpg←これがQuad盤の証、QUADRADISCのマークです。下に「CD-4 CHANNEL DISCRETE」とありますが、これは何あろう我らが日本ビクターが昭和45年(ということは1970年ですね)に技術発表して、翌年から発売した4chレコードのデコード方式の事です。
 一時は2chステレオなどもう古い、これからは4chステレオ時代がやって来るのか? というほどの雰囲気がありました。
 しかし時代は巡り今はホームシアター時代! 4chならぬ5.1chも普通となりました。
 
QUAD説明.jpg↑これはジャケットの裏面下、ローディーたちの足下に記述されたQuad盤についての内容です。クリックしていただくと拡大され読める程度になると思います。何と書いてあるかというと、
 

This quadradisc enable quadriphonic sound available from a record. When played through a demodulator it will produce pure, unsmeared four-channel sound. Quadradiscs are fully compatible with existing stereo equipment.

 でもねー、これ誤植があるんですよ。まずquadriphonicですが、これは quadraphonic じゃないと4チャンネルになりません。それから unsmeared ですが、そんな単語はありません。これは多分 unmeasured(広大な) でしょう。簡単に訳すとこうなります。
 

このクアドラディスク(4チャンネル録音盤)は、4チャンネル音による再生を可能にします。復調器(デモジュレーター)を使用すると、ピュアで広大な4-チャンネルサウンドが実現します。クアドラディスクは、既存のステレオ器材と完全な互換性を持っています。

2・レーベルのマークが違う! 

 
山羊ロゴ.jpg このQuad盤は1974年の発売で、CAPRICORNはATLANTICの傘下を離れワーナーブラザーズに移り、独自のレーベルデザインに移行していたのですが、ここにQuad盤ならではの不思議があります。
 専門家(?)の方たちは、この当時のCAPRICORNレーベルのマークを「ゴート(山羊)」と呼び、上の様に山羊が左を向いているのを「レフトフェイスゴート」と呼ぶそうですが、そう言うことを知らなかった自分は、自分なりに「左山羊さん」と呼んでいました。いずれにせよ向きをいちいち表記するのは「右山羊さん」も存在するからです。

quadレーベル72dpi.jpgcapricornロゴ.jpg 

 上・左はQuad盤のレーベルですが、よく見て下さい。全面に配置されている山羊さんが右を向いているでしょう? その隣は2CX 0131盤のジャケットの同じ位置にあるマークですが、これも右を向いています。このように右向きの山羊さんもあるわけで、これを「ライトフェイスゴート(右山羊さん)」と呼びます。さて問題は、というかなんというか、どうして同じQuad盤なのにジャケットはレフトフェイス、レーベルはライトフェイスになっているのでしょう? 整合性を考えれば、馬が西向きゃ尾は東、ではないですが、右なら右、左なら左にそろえるはずでしょう。何でこんなことになったのか? 良くわかりません。何か理由があるのか、それとも単なる間違いなのか。
 この件に関しては、いずれ「Fillmore研究室」で山羊さんについて考察してみたいと思います。

3・なぜアルバム・タイトルが無い?! 謎が謎呼ぶQuad盤ジャケット

ケース 1.jpg  ケース2.jpg 

 Quad盤に数々ある謎の中で、誰も話題にしなくて不思議だったのがこの一件です。何あろう、アルバム・タイトルが消されているのですよ! あるいはこちらがオリジナルかもしれない?! なんていろいろと妄想を働かせてくれるのがこのジャケットです。
 山羊が右を向いていようが左を向いていようが、あまり気にならないのですが(嘘付け! 笑)、この件に関してはQuad盤を手に入れて以来の悩みの種でした。

 上の写真は、左がQuad盤右がオリジナルですが、どうです?!あなたはどちらがオリジナル写真だと思いますか? そんなことどうでもいいって? それが良くないのがマニアの悲しさです。結果としてこれまたFillmore集めの動機の一つとなりました。タイトルなしははたしてQuad盤しか無いのか? はたまたタイトルなしバージョンの写真が他にもあるのか? それが色々とでてくるから頭が痛くなるのですが、その話はこれまた「Fillmore研究室」で報告しましょう。

4・ジャケットの内側にも色々違いがあります

QUAD裏ジャケ2.jpg 赤く囲んだところがオリジナルと違うところ。内側の紙質はオリジナルSD 2-802とは違いつるつるしています。 

QUAD裏ジャケ2.jpg  ピンク盤内側.jpg

 FillmoreのQuad盤のジャケットの内側には、オリジナルのレーベルロゴ(左)が記されていません。反対に言うとこのロゴが入っているのはピンク盤の証拠ということになります。
 あと画面ではっきり分かるかどうか心もとないですが、色合いが濃いのがQuad盤の特徴です。というか、ワーナー・ブラザーズに移行してからは、2CXであれCPNであれ、通常盤でもみなこの色です。ちなみに紙はどれも艶があるものが使用されています。 

アルバムクレジット1.jpgquad 1.jpg

 ジャケット内側・右端の曲目等の解説部分は、ほとんどピンク盤と同じ内容が記載されています(左側がピンク盤、右側がQuad盤)。
 例によって"In this two record set Side One is backed with Side Four and Side Two is backed with Side Three." つまり「1面は4面の裏側、2面は3面の裏側になっています」という但し書きは書かれていますし、実際の盤面もレコード1=Side1/Side4 レコード2=Side2/Side3になっています。
  しかしピンク盤の方では一番下に書かれていた"Capricorn Records distributed by ATCO Records, division of Atlantic Recording Corp. 1841 Broadway New York, N.Y.,1971 Atlantic Recording Corp. Printed in U.S.A."は、カプリコーン・レコードの提携先がワーナーブラザーズに移ったため、削除されて次の文章に置き換わっています。
 "Quadriphonic remix by O.V.Sparks 
Quadriphonic mastering by Darrell Johnson at JVC Mastering Center."とあります。JVCというのはVictor Company of Japan, Limited (JVC)つまり日本ビクターですね。そのマスタリング・センターで4chにリマスタリングされたわけですね。
 それはいいのですが、なぜかQuadraphonicと言う単語がQuadriphonicと2回も間違って表記されています。そういえば表ジャケット・裏面のクレジットにもQuadriphonicと書かれていましたが、ひょっとしたら元の原稿が間違っていたのかな?

5・ついでに盤面もチェックしてみましょう

IMG_2311.JPGCX4 0131 S40966 QUAD-1AIMG_2314.JPGD(?)Jの手書き刻印が…

 FillmoreのQuad盤の盤面刻印のマトリクスは左のようにすごく分かりやすいです。まずカタログナンバーのCX4-0131で、CX4というプリフィックスが4chのQuadra盤を表していることは容易に理解できますね。0131という番号は通常盤の2CXでもCNP2でも同じです。 

 つづいて盤面ごとに振られた原盤番号ですが、以下のようになっています。

  • レコード1…Side1=S40966 / Side4=S40969
  • レコード2…Side2=S40967 / Side3=S40968

 最後に本来のマトリクスと思われるQUAD-1Aというのが見えるかと思います。ちなみに2枚のQuad盤が手許にありますが、そのマトリクスは以下の通りです。

  • レコード1…Side1=S40966 QUAD-1A,-1B 
      •    Side4=S40969 QUAD-1B,-1B 
  • レコード2…Side2=S40967 QUAD-1A,-1A
      •    Side3=S40968 QUAD-1A,-1B

 それからもう一つ刻印があります。左の筆記体で手書きされたD(?)Jという文字が読み取れると思います。ジャケット内側にもクレジットされていますが、QuadraphonicにマスタリングしたエンジニアはDarrell Johnsonといいます。おそらくその人の名前ではないでしょうか。DとJの間の文字は定かでありません。ミドルネームか何かでしょうか? その辺は推測の域を出ません。

IMG_2293.JPGSD 2-802 ST-CAP 712223 RI CCC-1

IMG_2315.JPGCX4 0131 S40966 QUAD-1A

 上の写真を左右比較していただくとすぐに分かることがあります。それはRun-Offとわれる音溝の最後からレーペルまでのブランクの部分の幅の広さです。ピンク盤は狭く、Quad盤は広いですね。当然これは音溝の幅を意味します。ピンク盤が狭いということは、音溝は広く、反対にQuad盤のそれが広いということは、音溝が狭いというか細いわけですね。
 この件についてはあまり詳しくないのでこれ以上深入りしませんが、Quadの音溝は2chよりも細いということでしょうね。そこに4ch分の情報を盛り込むのですから、当時としてはすばらしい技術だったのでしょう。CD-4の技術が元になり、それ以降のカートリッジの性能が格段に進化したという話を聞いたことがあります。そのうちCD-4(Quad)のデコーダーを探すことにしましょう。

追記(09/05/11)


 Run-Offとわれる音溝の最後からレーペルまでのブランクの部分の幅が、ピンク盤に比較してQuad盤が広い理由が分かりました。Quad盤ならびにその再生にめっぽう詳しいノイさんという方に伺ったところ、Quad盤の音溝には4ch分の情報を分離するキャリアがあり、それがレコード盤の内周に近づくと線速度が落ちて読み取れなくなるため、溝そのものを細くして、線速度が落ちないようにする工夫ゆえのものだそうです。
 なるほどなるほど。ということは溝が細くなった分、音質は少なからず犠牲にされている可能性が高いと言えますね。そしてそれが奇しくも実証される機会に恵まれました(最下段へ)。 

6・レーベルにもチェックポイントがあります

fillmore4ch.jpg1974年製作のAt FIllmore EastのQuad盤peach4ch.jpg1975年製作のEat A PeachのQuad盤

 ものはついでといっては何ですが、レーベルデザインについても触れておきましょう。FillmoreのQuad盤のレーベル(左)は上でも少し触れましたが、ライトフェスゴート、つまり右向きの山羊のマークが全面に取り入れられています。センターの穴の左側にQUADRADISCのマークが入っていますね。
  またセンターの穴のすぐ上にはCAPRICORN RECORDSのロゴが入っています。これは翌年の1975年になるとその隣のEat A PeachのQuad盤でも分かる通り、レーベルのトップに移動しています。おそらくはレーベル用紙が元刷りで大量印刷され、アルバムクレジットのみあとから印刷する方法がとられたため、レーベル用紙そのものの在庫の問題もあって混在していたと思われます。ちなみにレーベル下部の製造者表示は以下のようになっています。 

  • CAPRICORN RECORDS, INC. MANUFACTURED BY WARNER BROS. RECORDS INC.

7・ついでのついでにインナースリーブです

 
IMG_2180.JPG  ごらんのとおりセンターレーベルさえ見えないただの袋が入っていました。これがオリジナルなのかどうか、2枚しかQuad盤を持っていないので判断できませんが、写真でも分かる通り経年変化というか劣化が進んでいることが分かります。
 どうも自分にとってはピンク盤のように枚数を集める対象ではなさそうなので、残念ながらこれ以上コメントできません。

8・音質評価です


 4chのQuad盤ですから、本来はスピーカーを4本しつらえて前後左右からの音場形成して聴くべきレコードですが、残念ながら4chの再生環境を持っていません。ですから、とりあえず2chの通常ステレオ再生で確認した感想を記します。あくまでも私個人の感想なので、その点は平にご容赦です。
 まず一番の違いはチャンネル・セバレーションというか、ピンク盤と比較してギターが明確に左右に分かれています。バンドの人ならコピーが簡単ということです。ただし音質そのものは軽いです。改めてピンク盤と直接対決させると、なんというか重厚感がないというか、独特の重く暗い雰囲気が出ません。ベリー・オークレーの重量級戦車の様な低音が出ません。ただし何度も言いますが、ギターサウンドは明確ですから聞き取りやすいです。

いよいよ曲目のテイク違い・編集違いについてです

1.ハーモニカ・ソロが聴ける"Stormy Monday"完全版

 
QUAD表ジャケ2.jpg さて、見た目の違いはこれぐらいにして、肝心の曲目についてに話を移しましょう。Quad盤の常として、オリジナルとは違うテイクが使われていることがあります。そしてこのQuad盤にもそれがありました。まず曲目はこうクレジットされています。
 まず聴き始めてすぐ気になるのは音質についてですが、DISC-1の表の3曲目"Stormy Monday"を聴き進めていくと、あれ? いつもと違う? と気がつくことがあります。それは曲の最後のボーカルの前にハーモニカのソロが聴こえてくるからです。
 そうです、"Done Somebody Wrong"でハーモニカのソロをとっているThom Doucetteによるものです。オリジナルの収録に当たってカットされたものであることは明らかです。なかなかブルージーで良いソロですが、演奏時間が1分以上長くなるので片面収録時間の限界か何かの都合で切られたのでしょう。
 これが一般のリスナーが耳にするまでには、1992年発売のボックスセット「The Fillmore Concert」(現在廃盤)まで実に18年もかかりましたが「The Fillmore Concert」と似たような曲構成のデラックス・エディションではまた元のバージョンに戻っています。ですから聴きたければ中古で「The Fillmore Concert」で探すのが一番の近道でしょう。

2.未編集"You Don't Love Me"がこんなところに!

 
 さて、DISC-2の表面に針を落としましょう。レコード片面を全部使った"You Don't Love Me"です。この曲はFillmoreの中でも一番好きな曲といって良いほどで、何回聴いたか分かりませんが、イントロを聴くなりびっくり! なんじゃこりゃあ!!! 全然いつもと違う!!! こういうことがあるからQuad盤は侮れません。とにかく飛ばすというかラフというか、あるいは荒々しいというか、ある意味通常のそれよりもゴリゴリと曲が進んで行きます。
 
 すわ一大事! と言うほどではないですが、これは全然違うテイクが入っているのか! と驚いたのですが、聴き進めるともっと驚きました。というのは、これまた途中のDuaneのみになってアドリブを繰り広げられるところからいつもの"You Don't Love Me"に戻るのです。どこからどう聴いてもいつもと同じ。頭の中が「???」。ほどなくしてプロデューサーのトム・ダウドが、オリジナル盤では3/12と3/13のテイクを編集したと雑誌のインタビューに答えていたという話を聞いて、なるほどと納得したのですが。
 
 ということで、結果だけを言うと、Quad盤の"You Don't Love Me"は3/13(1st Show)をノーカットで収録したもの、ということになります。
 これまた2001年に発売されたDTS・5.1ch仕様のDTS-CD盤にてのみ今も聴くことができます。ただし手に入ってもDTS-CDが再生可能のユニバーサルプレーヤーでしか聴けません(普通のCDプレーヤーは不可)ので、「The Fillmore Concert」にてノーカット版の"Stormy Monday"を聴くよりもハードルは高いかな? 

※Quad盤のまとめのようなもの

At Fillmore Eastファンなら、やっぱり欲しくなりますよね

 いかがだったでしょう? At Fillmore EastのQuad盤。こんなに突っ込みどころ満載なのに、どうして誰も何も言わないのか不思議でしたので、仕方ないから自分で書き出してみたのですが、やっぱり面白い一枚です。ジャケットは謎だらけだし、音源についてはここでしか聴けないテイクが入っているし。
 ということで、再度曲目について整理したいと思います。Quad盤で初めて聴けたのが次の2曲でした。

  • 1. ノーカット・バージョンの"Stormy Monday"
  • 2. 3/13(1st Show)の"You Don't Love Me"

 ちなみに現在4chバージョンというかサラウンド・バージョンの音源はDTS-CDかSACD盤を手に入れるしかありません。これらのそれぞれについては別項で詳しく述べますが、しかしそれらはQuad盤とは色々な意味で別物です。DTS-CD盤にはノーカットの"Stormy Monday"は入っていません。オリジナルの編集済みバージョンです。ただし3/13(1st Show)の"You Don't Love Me"はそのまま入っています。
 
 また最新のSACDサラウンド音源ですが、これはQuadとは別物です。オリジナルの音源をサラウンド用にリミックスしたもののようです。しかし"Stormy Monday"はDISC-1にノーカットで入っています("You Don't Love Me"はノーマルバージョン)。ということで、そんなことを望む人がいるかどうか分かりませんが、オリジナルのQuad盤の音源を聴きたければ、アナログ盤を探し出して購入し聴くしかないという結果になりました。もしCDで聴きたければ、自分で作るしかありません。唐突ですがそんなわけで自分で作ってみました。音源は残念ながらと言うか、当然というか2ch仕様です。どうせ作るなら今時はやりの紙ジャケで行こうと決めました。

 ところで気になるオリジナルの編集済みの"You Don't Love Me"についてですが、こんな風につなげられています。

  • イントロ〜Duaneソロ(約7分経過)…3/12(2nd Show)
  •              +
  • Duaneのみのアドリブソロ〜エンディング…3/13(1st Show)

 ということは3/12(2nd Show)の前半はどこに行ったのでしょう? これまた音源として存在していると言う情報がありません。こうなったら3月12日の方も通しで聴いてみたくなるのがファンの心理です。誰かご存じないですかー? ということでQuad盤についてはこの辺で一区切りさせていただきます。

補記 : ついにまともにQuad盤を、アナログCD-4の再生環境で試聴しました。貴重な経験でした('09年 4月29日)。

 長い間の念願だった、Quad盤を史上最高のCD-4再生環境で試聴することができました。山本さんと言うカメラマンの方が主催する東京のStudio K'sで4月29日に開催された音楽喫茶という定例イベントにて、恐らくは21世紀ではやろうなんて考える人は皆無だと思われていた、あらゆる方式でアナログ4chLPを聴くという無謀なる企画が立てられたのです。そしてその首謀者が、私のレコードハンティングの先生のようなノイさんということもあって、これは何はともあれ参加しなくてはなるまいと、おっとり刀で上京したわけです。もちろん事前にFillmoreのQuad盤"You Don't Love Me"をリクエストしておいたのは言う間でもありません。
 
 その日のイベントは午後1時から5時までというマラソン・レコードコンサートで、自分が参加したのは午後2時近くだったのですが、CD-4、QS、SQなどありとあらゆる種類のアナログ4chのフォーマットで掛けられたレコードのジャンルも歌謡曲からジャズ、ロック、クラシック、イージーリスニングと多岐にわたり、聴き終えた後はかなりの興奮と、けっこうな疲れに襲われました(笑)。
 特に凄かったのはご存知Pink Floydの「The Dark Side Of The Moon」でした。これはもう凄かった!!! この件については私がグダグタ言うよりノイさんのホームページを見て頂くに限ります。

 さてわくわくしながら初めて聴いた、正しく再生された4chQuad盤の音はいかに…。かなり期待していただけに、正直言えば「うーん…」という感じでした。とにかく何がどうのこうのといって、その音場展開が想像を絶するもので、必死に聴き取った音場を思い起こしてみると、右のような図になりました。そうなんです、ライブのサラウンド音源の典型である、フロントにバンドが展開し、リアに観客のノイズが広がるようなものかと思いきや、45度左サイドに大きく振ったような展開となりました。
 しかもリアは後方・上部に音が展開するので、曲が始まって何が起きたかというと、デュアンが弾くイントロが、なんと左後方・上空に展開したのです。デュアンのあだ名が"Sky Dog"だからといって、そりゃあないでしょう(笑)。
 
 それからツイン・ドラムがツインに聴こえません。ほとんど右チャンネルからしかドラムの音がしないんです。しかもピンク盤だと重戦車のように聴こえるベリーのベースも、なんとも音の芯の無い、ぼわーんと膨らんだものでした。最初は再生した機器のせいかとも思ったのですが、後からノイさんに訊くと「低音が膨らむのはCD-4の音の傾向」ということでしたので、どうやらCD-4という4chフォーマットでマスタリングされた音源によるもののようです。

Quad音場.tif
 こうやって書いてしまうと、もう一つだったかのように思われますが、日本中でどれだけの人間が、この4ch盤のFillmoreをちゃんと試聴できたか、そして評価できたかと考えると、これはもの凄く貴重な体験でした。
 こういう機会を与えて頂いたStudio K'sの山本さん、そして当日レコードを回し続けたノイさん、本当に有難うございました。 

補記の補記 : ノイさんよりFillmore・Quad盤について、補足説明を頂きました。ありがたき幸せ! ('09年 5月11日)。

 私が4chの師匠と仰ぐ前述のノイさんより、以下のようなご指摘をいただきました。

「QUAD配置の右後ろがカラッポなので何か不備があったのかなと、慌てて聴きなおしてみましたが、ご指摘の通りの配置でした。ただ、右後ろにはブッチのシンバルが少し飛んできていました。ほんとそれ以外は右後ろはスカスカです(笑)」

 さすがご自宅でどんなフォーマットの4chでも試聴ができるノイさんならではのご指摘です。
 
 さらに以下のように続きます。

「Duaneのギターは最初のうちはご指摘の通り、左リアに居ますが、中盤Duaneのソロだけになるあたりで前の方に寄っていきます。さすがに一人だけになって左後ろに居座るのは不自然に思ったのでしょうか。やっぱりなんかヘンなQUADでした。A1とかは割りとフロントに寄っていてわりとまともですけど、QUADならではのMIXとは言い難いです」

 そうか、私がちゃんと試聴できたのは、この"You Don't Love Me"だけですからね。後の曲とはリミックスが違うということまでは、考えに及びませんでした。なるほど、なるほど。
 
「余計なお世話ですが QUADは4chですからセンターはありません。Cが書いてあると5.0chと勘違いされるかも」

 これは言い訳をさせて頂くと、DTSの音場の配置図と一緒に書いていたので、間違ってしまったんです。早速変更させて頂きました。
 
「QUADはフロント、リアを書き足してLf(Left front),Lr(Left rear),
Rf(Right front),Rr(Right rear)と表記するのが多いです。VICTORだけはCH1(Lf),CH2(Lr),CH3(Rf),CH4(Rr)と表記してあるのでとてもややこしいのでした」

 なるほど、なるほど。これも早速取り入れて配置図を書き直させて頂きました。いやはや、どうもありがとうございました。この場を借りてお礼を申し上げます。