Reel To Reel

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オープン・リール・テープについて紹介しましょう

テープの王様はオープン・リール・テープです。70年代初頭まではけっこうミュージック・テープが販売されていました。

我々の世代にとって、メカメカしいオープン・リールのテープデッキは憧れでした。オーディオの華でした。

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 何でもかんでも簡単でラクチンで、というような昨今の世の中の動向から考えると、正反対の位置に有るのがオープン・リール・テープを聴くという行為でしょうね。英語ではReel To Reelというのですが、大きなデッキにまるで映写機のフィルムのようにテープを渡して録音・再生します。最もオープン・リールのテープデッキが幅を利かしていたのは、1970年代前半でしょう。業務用規格ともいえる10inchリール・2トラック・38cm/sec.という仕様のものも、また民生用として数々市場に出されました。
 
 もっともカセットテープの項でも紹介したように、ドルビーのノイズリダクション・システムがどんどんと性能が良くなり、加えてテープのベース素材や磁性体の開発が進んで音質がグンと向上し、70年代の半ばあたりからテープ・メディアの中心はカセット・テープに移って行きました。やはり省スペース・簡単・便利の方向に世の中は進んで行ったのでしょうね。それでもしばらくはカセットと平行してミュージック・テープとしてのオープン・テープも発売されていました。もちろんFillmoreにもありました。
 
 ただ、カセット・テープほどのバリエーションはありませんでした。長年探して手許に集まったのは以下の2種類です。今や化石メディアともいえるオープン・リール・テープで聴くFillmoreの魅力について紹介しましょう(写真左は1970年代初頭製造の愛機TEAC A-7010 GSL。ただしグラスヘッドをパーマロイに交換済)。

▼1. CAPRICORNレーベルの一番最初のオープン・リール・テープ…L 802 (USA)

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おそらく通常盤のオープンはこれのみだと思います

 
 カタログナンバーがL 802ということからも分かるように、ピンク盤と同時期に発売されたものでしょう。
 カセットテープの初盤L 5802と同様にAtcoから出されたもので、パッケージ裏面の表示から分かる通りAmpexで製造されています。
capricornロゴ.jpgcapricornロゴ2.jpg またケースの上蓋の写真にもPink盤のジャケット同じようにステンシルのCAPRICORN(左・上)のロゴが入っています。 箱の裏側とテープのラベルには、ピンク盤のレーベルと同様のレーベルロゴ(左・下)が入っています。
 箱の裏面には曲目等のクレジットが有るだけで、LPではおなじみのローディーたちの写真は掲載されていません。ただ箱の外装のブルーのベースの色は新鮮な感じがします。

肝心の音源について解説しましょう

 
箱背.jpg オープン・リール・テープには色々なサイズがありますが、大抵のミュージック・テープの場合にはEP盤と同じ7インチサイズ(直径約17.5cm)のリールに約6mm幅テープが必要な時間に応じた長さで納められています。このテープは一本にLPサイズで2枚組・約80分が収録されています。箱の背にもDOUBLE PLAYと書かれています(写真上)。Ampexのテープに片面約40分、テープスピード7.5nch/秒で往復で収録されています。ちなみにオートリバース仕様のデッキに対応していて、片面が終わると自動的にリバース再生するように加工されています。ちなみに曲順はLPのクレジット通りになっています(パッケージの写真参照)。 

 肝心の音についてなのですが、やはりアナログ・テープらしい重心の低い落ち着いたもので、安心して聴くことができます。昨今のCDでは絶対に聞けない種類の音でしょう。

▼2. 次のテープは4チャンネル・QUAD仕様です…CSTQ 0131-QM-DT (USA)

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quad 箱背.jpg もうひとつのオープン・リール・テープは、なんと4ch・Quadraphonic仕様の2本組みのものでした(QuadQuadraphonicについて詳しくはこちらを参照下さい)。
 これはeBay(オークション)にてシュリンクされた未開封の状態で手に入れました。今回紹介するために、1974年の発売以来34年の月日を経て開封したものです。
 
 写真左上のパッケージ写真を見ると、Fillmoreらしくなくカラフルですが、これはこのテープだけのデザインではなく、当時のQuadraphonicのミュージックテープに共通するものです。4辺の4色に色分けされた細長い帯が4chを意味していることは疑うまでもないですね。
 
 その他のジャケット写真のオリジナル・ピンク盤との相違点を、写真上で赤い線で囲いました。例によって左上の機材ケースにはTHE ALLMAN BROTHERS BAND AT FILLMORE EASTの文字が有りません。

数々のQUADRAPHONICの証

 
quadマーク.jpgQUADマーク.jpg 
 
 ↑これがQuad盤の証、QUADRADISCのマークです。右側がアナログLPのQuad盤CX4 0131のマークで、左側が今回紹介したテープの箱のものです。比較してもらうと分かりますが、テープの方が若干縦長になっています。スキャンのミスかとも思い実物に当たってみましたが、やはり縦長に変形していました。写真製版時の取り込み時に変形したのでしょうか。
 
quad説明.jpgQUAD説明.jpg 
↑これはジャケットの裏面下、ローディーたちの足下に記述されたQuad盤についての内容です。こちらも上がテープの裏箱の赤く囲った部分を拡大したもの、下がオリジナルのCX4 0131のジャケット裏側の同一部分をスキャンしたものです。
 クリックすると拡大されるので比較してもらうと分かりますが、まったく同じ文面・書体ですが、これまたどうやらジャケット写真を写真製版したらしく、文字が潰れてしまっています。内容に付いてはこちらを参照して下さい。

ジャケット写真はオリジナルQuad LPをトリミングしたもの 

 
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 おなじみディッキーの左足・下にあるCAPRICORNレーベルのマークですが、上の写真を比較して頂くと分かりますが、これまた1974年の発売のQuad盤のものそのものです(左がテープ、右がオリジナル)。
 ただ比較して頂くと分かる通り、オリジナルは線画で製版されており拡大してもきれいにマークが見えますが、テープの方は山羊のマークも網点になっていますね。これは写真製版したことに他なりません。ちなみにCAPRICORN RECORDSのロゴはテープの箱ではトリミングされて、ロゴの上端が点になって残っていることが分かります。

4トラック2チャンネルのデッキでも再生可能 

 
 本来は4チャンネルのテープなら、4トラック・4チャンネル仕様のデッキでないと正確にQuadraphonicの再生はできません。それが理由で購入してから長い間開封もせずにいたのですが、このホームページで紹介するために重い腰を上げたのは既に述べた通りです。
 もともと大抵のミュージックテープは4トラックで、片道2トラックを使用してステレオ再生しているのですから、残りの2トラックをリアの2チャンネルにまわしているだけなので、当然普通の4トラック仕様のデッキに掛けたら、フロントの2チャンネル分だけの再生になります。片道演奏でテープスビードが同じなら、2本のテープになってしまうのも当然ことでしょう。ただし曲順がレコードの盤面順になってしまっています。そのため最後の曲がHot' Lantaなので、通しで聴くとちょっと変です。例によってYou Don't Love Me は別テイク、Stormy Mondayはロング・バージョンです。 
 ちなみにすんなり再生はできました。それも、もの凄い音で!

※オープン・リール・テープのまとめのようなもの

 もしオープンテープを購入するなら(笑)、Quadがおすすめです。音が全然違います。デュアンの指使い・ピッキングが見えます。

 CD、SACD、さらにはHDレコーディングが全盛の時代に、物量の固まりのようなテープ・メディア、しかもオープン・リール・テープで音楽を聴く行為というものは、余程の物好きとしか言いようが無いでしょう。それでも聴いてみなければ分からない、だから何とかして聴くしか無いのです。
 
 あー、びっくりした! Quad盤の2本組みのテープで聴かれるFillmoreは、当然オリジナルとはマスタリングも音のバランスも違います。まして2チャンネル・ステレオ再生ですから、本来の意図された音作りとかけ離れた再生です。だからこれをもっての論評というのはいかがなものかとは思うのです。ですが、それでも100セットのFillmoreを手許において、ありとあらゆるフォーマットで聴いてきたこの耳で聴いても、このQuadのテープの音はかなり驚くものでした。
 
 それはもちろんテープというメディアのもつ特性も有るでしょう。さらにリアの成分を全くカットしてのフロントの音だけですから、当然といえば当然なのかもしれません。しかし、このテープで聴かれるデュアンの生々しさは何なのでしょう? あえてチャンネル・バランスとかそういう話は置いておきます。耳はデュアンのギターの音にクギ付けです。フィンガリングが、ピッキングが、まさに見えるような生々しさです。心臓がドキドキします。そこにべりー・オークレーの重戦車のようなベース音が絡み付きます。いやー、ベリーのベースってこんなフレーズだったのね。
 
 オリジナル・ピンク盤のドロッとした感じは当然ながらありません。なんたってテープなのでチャンネル・セパレーションやら、Quadとしてのマスタリングが違いますから。ただ、浴びるようにデュアンのギターを聴くということでは、このQuadのテープの音は白眉でしょう。
 
 というわけで、このQuadテープは個人的にCD-R化して、ストレス発散したい時に聴くべし、と言う結論となりました。もし今でも完動品のオープン・リール・テープデッキを持っていて、オールマンかデュアンが大好きで、eBayなどオークションの手間を厭わないという人がいるのでしたら、ピンク盤1stとは違う意味でQuadテープののFillmoreはお勧めですよ。元が違うのだから、どんなフォーマットもかなわないと思います。

※4trデッキでQuadテープを聴いてみました (2009.01.06追加)

4trデッキ.JPG 2trデッキでもちゃんとした音は聴けたのですが、どうしてもリアの音も含めてどんな音なのか聴いてみたくって、とりあえず4tr・4chのオープン・リール・デッキを手に入れました。これまたけっこう古いテクニクスのデッキでしたが、通電すれば無事稼働、もちろん再生もできました。
 
 最初はオーディオ機器の常で、寝起きというか、眠たい音だったのですが、それなりに動かしているうちにそこそこの音になってきました。そこで、これまた軽く20年は経つTASCAMの小型ミキサーがたまたまあったので、これにフロントのL/R、リアのL/Rをそれぞれ1chずつ割り当てて、お目当てのFillmoreのQuadのテープを聴いてみることにしました。
 
 テープの場合には各トラックに各チャンネルの音声が記録されているので、純粋にフロントだけとかリアだけとか取り出せます。もちろん今回のようにミキサーを使えば、フロントにリアの音を混ぜることもできます(できたからどうということは無いのですけど)。というわけで、興味津々だったのはリアの音がどんなふうかということ。
 
 結果だけを言えば、単なる残響音という感じ。フロントの音に適当な残響音を付加したものとオーディエンスの拍手などが入っているのみ。あんまり意味はないですが、フロントとリアとを混ぜたり、フロントだけ、リアだけ、というような音出しをしてみたのですが、うーん……。もう一つピンと来ません。まあ、もともと2ch音源ですから、位相成分ぐらいでしかリアの音を作っていないのでこんなものなのでしょうか。
 
 気を取り直して、愛機TEAC A-7010 GSL(パーマロイヘッドに交換済)で2ch再生したら、やっぱりごっつい音でした。個人的にはコンサート会場でかぶりつきで聴いているような、2ch再生のほうがどうにも魅力的ということを確認した今回の試聴でした。