PINK盤(SD 2-802)

jackets.jpg

PINK盤あれこれ

ジャケットの話から始めましょうか

ロックだぜ! 熱い男たちだ! ってな雰囲気で

 
 At Fillmore Eastといえばロック界ではなく子も黙るというか、真似さえするものもいないというか、むさ苦しい男どもが表だけならまだしも、裏面までに及ぶ(何でローディーまで記念撮影?)という珍しい写真で有名です。最初目にした国内盤はさらにその写真が黒つぶれして、とにかく真っ黒けのけ。しかし雰囲気だけは抜群に有りました。そんじょそこらのチャラチャラしたロックとは違うんだぞ、というような匂いをまき散らしていました。ただし国内盤だから赤いタスキ(帯)はちょっと似合わなくて、買うなり外した記憶が有ります。


 ですから、初めてオリジナルを見た時は「ほう」というか何と言うか、言葉にならない感慨が有りました。しかしこれまた後日談が有って、同じ写真をカラーで撮っていたんですね。それを見た時には違う意味で「ほう」と思いました。やっぱりモノクロ・ジャケットで正解だったなあ、って。まあそれもそれも後でご紹介しましょう。百聞は一見にしかずですから。
 そんなわけで、これからしばらくはこのレコードのジャケットにまつわるいろいろな話におつきあい願います。マトリクス刻印にまつわるような面倒くさい話は少ないので、書く方もホッとしていますが。

ジャケット外側.jpg 何分にも古いモノなので痛んでいますが、これが米盤・ATCOでCAPLICORNレーベルSD 2-802、通称ピンク盤のジャケットの表側です。   表(右側)はメンバー、裏(左側)にはローディーという珍しい配置です。ローディーの写真ををこれだけ大きく出したジャケットというのも珍しい。 
ピンク盤内側2.jpg表も渋いですが、中も渋い! メンバーの演奏写真もツートーンにまとめられていてカッコいい!!! ところで右側に色々とクレジットされていますが、ここには様々な情報が書かれています。たとえば裏ジャケのローディーの名前とか、写真を撮影したJim Marshallの紹介なんかも有ります。 

とりあえずメンバー紹介から。

 
 これからお話しすることは、レコードの音そのものにも関係ないし、だからどうなのよ、と言った種類のことばかりなのですが、気になりだすと気になるのが人の常で、自分自身もそれまでは全くの無頓着、音が良ければいいだろうと思っていたのですが、それはそれで楽しいということに気づいてしまいました。いったん気づいてしまったら、これは後戻りできません。しばしおつきあいください。
 
 まずジャケットの表紙を飾る写真なのですが、Allmnanと言えばこの写真が思い浮かぶほど有名ですね。言わずもがなですが、ジャケットの写真は向かって左から

  • Jai Johanny Johanson ジェイ・ジョニー・ジョンソン(ジェイモ)/ドラムス
  • Duane Allman デュアン・オールマン/ギター
  • Gregg Allman グレッグ・オールマン/キーボード、ヴォーカル
  • Dickie' Betts ディッキー・ベッツ/ギター、ヴォーカル
  • Berry Oakley ベリー・オークレー/ベース・ギター
  • Butch Trucks ブッチ・トラックス/ドラムス

 ちなみに裏ジャケはローディーたちです。せっかくだから名前も紹介しちゃいましょう。同様に左から。

  • The Red Dog
  • Kim Pain
  • Joe dan Petty
  • Mike Callahan
  • Willie Perkins

というわけですが、なんでこんなことが分かるかというと、全部内側に書いてあるからです(笑)。ただ一人学級写真を撮る日に休んだ生徒のように、壁に一人だけで横顔が映っている人がいるでしょう。この男性はTwiggsといってもちろんローディーなのですが、実はこのとき殺人罪でブタ箱に入っていたんですね。なんでもギャラをすんなり払わないライブハウスのオーナーとのトラブルで殺っちゃったんだとか(後に無罪放免)。こういうメンバーにも感謝の意を表すあたり、Allmanたちの気質が出てますね。男の世界と言うか。

ここはフィルモア?

 
 ジャケットの写真はステージの機材を背にしているから、この場所はさしずめFillmore Eastの裏手? などと考えがちですが、残念でした。ここはCAPRICORNのスタジオの前でした。1971年3月19日、ニューオリンズのWarehouseのコンサートに向けて積み出された機材を前にしての写真です。撮影はJim Marshallとジャケットにクレジットされています。
 どうしてみんながにこやかに笑っているかというと、色々な説が有りますが、デュアンがこの直前に友人からコカインを手渡されて、それを隠し持っている様子にメンバーが思わず笑った、というような話になっています。別の話ではJim Marshallが「笑わないとヤクをあげない」と言ったから、なんてのもあります。どちらにせよドラッグがらみですね。70年代らしいエピソードです。
  ところで08年3月25日に発売された月刊PLAYBOY 5月号に「ロック・ベスト100」という特集が有って、このFillmoreも5位に入っていたのですが、そこにこんな写真が掲載されていました。
フィルモアネガ.jpg 
 何度も何度も撮ったんですねー。しかも同時にカラーまで(この話はまた後で)。でもこんな写真ここに掲載していいのかな? 駄目だったらすぐ削除しますね。

ピンク盤ならではの突っ込みどころも有ります

シンプルな中にこだわりが見えます。 

 ジャケット外側2.jpg 
 FIllmoreは本当に必要最低限の文字しか無いデザインで、なかなか良く考えられていると思います。このデザインは基本的にアナログ盤が終焉を迎えるまでずっと変わりませんでした。しかし時代とともに必ず変わった部分が有ります。それはレーベルのロゴです。
 
 ジャケットの表には、まず右上にCAPRICORN SD2-802というカタログナンバーが入っています。これが無いとピンク盤でないのは言うまでもないですが、もっと分かりやすいのはセンター下、つまりディッキーの左足のつま先の下にあるCAPRICORNというロゴマークですね。ステンシルかなんかで貨物に書かれるような書体です。これがとにかくピンク盤の目印。
 1974年以降はここに山羊座(つまりCAPRICORN)のマークが取って代わります。とにかくいつもこの場所にいろんなロゴが来ます。
 
 同じマークは裏ジャケットのセンター下にも、またジャケットの内側にも有ります。この3カ所にCAPRICORNの文字が有るのがピンク盤の特徴です。

 
 

ジャケット外側2.jpg 
ピンク盤内側.jpg 
 ちなみに内側の左上(↓)にはカタログナンバーが入ります。ここも大抵はカタログナンバーの指定席となっています。
 
ピンク盤内側.jpg 

 よく見るとこんなことが書いてあります。

 
 ジャケット内側の右側には、曲目やメンバーなどのクレジットが有るのですが、これまたFillmoreを面白くしてくれるコメントが書かれているので紹介しましょう。この話、実は後々まで尾を引きますので、記憶に留めておいて下さい。
 
アルバムクレジット2.jpg 1という数字で示した赤く囲ってあるところをご覧ください。小さい字ですがなんとか読めるでしょう。こうあります。
"In this two record set Side One is backed with Side Four and Side Two is backed with Side Three."
 なんこっちゃ? つまりこのレコードは、1面は4面の裏側、2面は3面の裏側になっています」と書いてあるのです。簡単に説明すると、

レコード1
  =Side1/Side4 
レコード2 
  =Side2/Side3 

というわけですね。
 なんでこんなややこしい構成にしているのかというと、当時アナログプレーヤーにはオートチェンジャーというものがありました。これはターンテーブルのセンタースピンドルを長くして、複数のレコードを掛けられるようにしたものなんです。日本では高価なこともあってか、あまり普及しませんでしたが、その手軽さと長時間連続演奏が可能ということで、欧米では一般的に使用されていたようです(右上のプレーヤーはその代表機種・西ドイツDUAL社製のもの。LPはもとよりEP盤、10インチ盤も連奏できるすぐれものです)。
  例えば2枚のレコードを重ねてセットします。分かりやすいようにレコード1がA面・D面、レコード2をB面・C面と言い換えますね。そうすると2枚重ねてオートチェンジャーにかけ、1A→2Bと聴いてひっくり返し2C→1Dと続けることで、作り手の意図した曲順を1回の交換作業で聴き続けることができます。実際にレコードもこんな風です。

 
dual1218.jpgピンク盤順.JPG 
 右のレーベルには「ONE」左のレーベルには「TWO」と書いてあるのが読めるでしょうか。つまり曲順通りに盤面はなっていないのです。これがのちのち混乱を起こす元となって行くのです。いや、ほんと(この件に関しても改めて解説します)。
 
 このことに比べたら、一番下の2という数字で示された赤い囲みの部分は大したこと無いですね。
 "Capricorn Records distributed by ATCO Records, division of Atlantic Recording Corp. 1841 Broadway New York, N.Y.,1971 Atlantic Recording Corp. Printed in U.S.A."とあります。
 
 これまたややこしいのですが「カプリコーン・レーベルはアトランティック・レコード傘下のアトコ・レコードから配給されています」ということになりますね。でも、1stプレス探しのページでも見られたように、ピンクのレーベル上ではATCO→ATLANTICとなっても、ジャケットでは最後までAtco配給と印刷されたままでした。
 これはジャケットとレーベルの印刷方法の違いからくるのでしょうね。ジャケットは大ロットで製作し、レーベルの方は元刷りは大量に作っても、黒い文字の印字部分は後からスミ版のみを重ねて刷れるので、逐次変更のたびに刷って行ったのでしょう。細かいことですが。
 
 ちなみにジャケットの紙質ですが、表はコーティングなし、内側も表と紙質が違い梨地というかざらついた質感の異なる用紙が使われています。こういう組み合わせもピンク盤のジャケットならではです。

 ▼せっかくなので、レーベルに印刷された原盤番号と盤順を並べてみました。CD時代の現在には考えられないことですね▼

MOラベルDD.jpg原盤番号は 712223でONE(表)MO-side4.jpg原盤番号は 712224でFOUR(裏)MO-side2.jpg原盤番号は 712225でTWO(表)MO-side3.jpg原盤番号は 712226でTHREE(裏)

インナースリーブ(内袋)にもお楽しみがあります

▼最初期は本来の機能のみ・シンプルです。            ▼広告入りの最初です。 ROCK 1と左下隅に表記があります。 

 
インナースリーブ.jpgRIインナースリーブ.jpg   MOのインナーrock1表.jpgMOのインナーrock1裏.jpg 

 無地のはなーんにも印刷されていません。透かしてみてもただの無地です。ということで、1971年の発売当初はこれなんでしょうね。
  で、LPの広告入りの最初は「ROCK 1」と左下に表記があるカラー刷りのインナースリーブです。対象レーベルはATLANTIC・ATCO・Cotillionです。ざっとですが、発売時期の分かるものを調べてみました。
 
ELP〜ELP 1970 
TARKUS〜ELP 1971 
PICTURES AT AN EXHIBITION〜ELP 1971 
Motel Shot〜Delaney & Bonnie & Friends 1971 
Led Zeppelin III ~ Led Zeppelin 1970 
Led Zeppelin IV〜Led Zeppelin 1971 
Islands~ King Crimson 1971 
The Sun Moon & Herbs〜Dr. John 1971 
The Yes Album〜Yes1971 
Fragile 〜Yes 1971 
Sticky Fingers〜Rolling Stones 1971
 Jonathan Edwards(1st)~ Jonathan Edwards 1971

DejaVu ~ Crosby Stills Nash & Young 1970
4 Way Street ~ Crosby Stills Nash & Young 1971
Stephen Stills~ Stephen Stills 1970
Stephen Stills 2  ~ Stephen Stills 1971
Songs for Beginners〜Graham Nash1971
Live Cream Volume II 〜Cream 1972(March)
Reatrictions~ Cactus 1971 
Fragile〜Yes 1971年
Keep The Faith〜Black Oak Arkansas 1972
black oak arkansas〜Black Oak Arkansas 1971
If I Could Only Remember My Name〜David Crosby 1971
The Morning After 〜J. Geils Band 1971
Woodstock 1970
Liv〜Livingstone Taylor 1971
 
 ということで、この中で一番新しいのが1972年発売のKeep The Faith〜Black Oak Arkansas とLive Cream Volume II 〜Creamです。ということで、1972年後半あたりから使用されたのでは? などと勝手に想像しています。

▼ROCK 2                         ▼ROCK 3  

 
MOのインナーrock2表.jpgMOのインナーrock2裏.jpg   RIインナーrock3裏2.jpgRIインナーrock3表 1.jpg

ROCK 2」はATLANTIC・ATCO・Cotillionに新たにAsylumが加わりました。以下に「ROCK 1」と重複しないものを挙げてみました。
 
Exile on Main St. 〜Rolling Stones 1972(5/12)
Dr. John's Gumbo ~ Dr. John  1972
Manassas~ Stephen Stills 1972
Graham Nash/David Crosby~ Crosby & Nash 1972 4/5
Jo Jo Gunne〜Jo Jo Gunne 1972
Eagles〜Eagles 1972
Fm Am〜George Carlin 1972
In-A-Gadda-Da-Vida ~ Iron Butterfly 1968
The Morning After 〜J. Geils Band 1971
Saturate Before Using〜Jackson Browne1972
If An Angel Came To See You Would You Make Her Feel At Home? 〜Black Oak Arkansas1972
 
 追加されたもののほとんどが1972年のものだと分かります。なので1972年の後半(あるいは末)ぐらいから使用されたのでしょうか。

ROCK3」は「ROCK2」と同様にATLANTIC・ATCO・Cotillion・Asylumです。同様に重複しないものを挙げてみました。
 
"Live" Full House ~ J. Geils Band 1972
Roberta Flack & Donny Hathaway 1972
First Take ~ Roberta Flack1969
Close To The Edge〜Yes 1972 
The Divine Miss M 〜Bette Midler 1972
Like A Seed〜Kenny Rankin 1972
Ramatam〜Ramatam 1972
Honky-Tonk Stardust Cowboy〜 Jonathan Edwards 1972
For the Roses〜Joni Mitchell 1972 
'ot 'N' Sweaty ~ Cactus 1972
Class Clown〜 George Carlin 1972(9/29)
Batdorf & Rodney〜Batdorf & Rodney1971
Laugh When You Like 〜Jerry Stiller & Anne Meara 1972
 
 こちらも追加されたものがほぼ1972年度内のものです。なので1973年以降から使用されたのでしょうか。 

▼ROCK 4

 
SHインナーROCK4表.jpg SHインナーROCK4裏.jpg 
 
ROCK 4」はATLANTIC・ATCOのみになりました。以下に今までのと重複しないものを挙げてみました。
 
Diamonds in the Rough〜john prine 1972
In the Right Place〜 Dr. John 1973
Killing Me Softly with His Song〜Roberta Flac 1973

    

 
Cross Country〜Cross Country 1973 
Down the Road~ Stephen Stills & Manassas 1973
Raunch 'N' Roll Live〜Black Oak Arkansas 1973
Beginnings〜Allman Brothers Band 1973
History of Eric Clapton 1972
Derek And The Dominos In Concert 1973
Yessongs〜Yes 1973(5/4)
Goats Head Soup〜Rolling Stones 1973
Hey Now Hey (The Other Side of the Sky) 〜Aretha Franklin 1973
Houses Of The Holy〜Led Zeppelin  1973
Bloodshot〜 The J. Geils Band 1973
Larks' Tongues in Aspic 〜 King Crimson 1973
ERIC CLAPTON'S RAINBOW CONCERT 1973
Breezy Stories〜Danny O'keefe 1973
 
ということでまずほとんどが1973年発売のレコードです。ということは早くても1973後半からの使用ということになるのでしょうか。これまた推測の域を出ないのですが。 

▼せっかくここまで調べたので、手持ちのピンク盤の原盤番号と付け合わせをしてみましょう。はたしてどんな結果になるのかな?

インナーレーベル
                    原盤番号(マトリクス番号)
無  地
ST-CAP 712223PR C/ D/ E/ F,
ST-CAP 712223 RI CCC-1/CCC-1-11/ CCC-1-1111/ DDD-1/ DDD-1-11/  DDD-1-111,その他多数
ROCK 1
ST-CAP 712223PR D,
ST-CAP 712223MO DD2,
ROCK 2
ST-CAP 712223MO DD2
ROCK 3
ST-CAP 712223PR D/ F,
ST-CAP 712223 RI DDD-1
ROCK 4
ST-CAP 712223 SH C
(これが何ともくせ者です。マトリクスCで配給元もATCO、なのにどうして1973年以降のインナースリーブ?)
ST-CAP 712223 CTH F

 順当な結果ですね、マトリクス番号末尾の記号のジェネレーションと、インナースリーブのジェネレーションが一致しています。ただしST-CAP 712223 SH Cを除いては! あらためて検証するしか無いでしょうね。ということでインナースリーブ、これにておしまい。